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愛しいしと!
※画像の引用元:角川映画
先生は面白くてついつい見入ってしまいました。
ヴァナ・ディールと指輪物語の関係を見ていきましょう。
指輪物語とヴァナ・ディール
ロード・オブ・ザ・リングこと「指輪物語」はイギリスの作家 J.R.R.トールキンによる長編小説です。映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作として、2002年から2004年にかけて公開され大きな話題を呼びました。
FF11がサービスを開始した2002年前後に立て続けに公開されたので、映画館で観た人も多いことでしょう。
原作は1937年から1949年にかけて書かれました。最初の版は1954年から1955年にかけて3巻本として出版されました。
「指輪物語」は数々のファンタジー小説や映画、アニメ、ゲームなどに多大な影響を与えてきました。もちろんヴァナ・ディールも「指輪物語」から産み落とされた世界のひとつと言っても過言ではありません。
「指輪物語」の魅力と、ヴァナ・ディールとの関係を紐解いてみようと思います。
神話の再構築
「指輪物語」の真髄は、神話の再構築であると言えます。
「指輪物語」のエピソードや登場人物は、世界の神話や伝承、古典文学などが元になっています。様々なエピソードを分解して、再び組み上げたものが「指輪物語」です。
20世紀の神話であると言えます。
たとえば身に着けると姿を消すことができる指輪は、アーサー王伝説の中で、侍女ルーネテが騎士イヴェイン(ユーウェイン)をかくまうため姿を消す指輪を与えるエピソードと重なります。
力が宿る指輪は、アイスランドの神話「ヴォルスンガ・サガ」に登場します。巨万の富を生むとされる金の指輪を持つ王、そしてその指輪を欲するあまり王を殺してしまい、指輪の力で蛇の姿に変えられてしまった王の息子のエピソードとして残っています。
このエピソードは指輪欲しさに友人のデアゴルを殺してしまった「愛しいしと!」のスメアゴルに繋がります。スメアゴルはもともとホビット族でしたが、指輪の力で醜い姿に変わってしまいました。
ザルカバードの崖下で闇に堕ちて行ったラオグリムに通じるものがありますね。
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Iwein - Wikipedia
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主人公フロドと共に旅をする魔法使いガンダルフは、北欧神話の最高神オーディンがモデルになっています。オーディンは神々の世界アスガルドに住んでいますが、時には人に姿を変えて人間界ミッドガルドに降りてきて、人々を導きます。
ガンダルフ (Gandalf) は古ノルド語で魔法を使うエルフを意味します。gand が魔法、alf が妖精、つまりエルフです。
FF11では甲冑をまとった姿で軍馬スレイプニルとともに登場しますが、北欧神話では地上に降りるときのオーディンは長い髭をたくわえ、つばの広い帽子と灰色のローブを着た老人として描かれます。ガンダルフのイメージに近い姿ですね。
北欧神話にまつわる記事としては、以前、歴史ドラマ「ヴァキング 海の覇者たち」を紹介しました。
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【北欧神話】ヴァイキング 海の覇者たち【FF11的世界観】
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天界、人間界、地獄界
「指輪物語」では人間の世界は「中つ国」と呼ばれます。
世界を3つに分けて考えることは、北欧神話に由来します。
北欧神話では世界樹ユグドラシルの樹上、幹、根がそれぞれ、天界:アスガルド、人間界:ミッドガルド、地獄界:ヘル を象徴します。
指輪物語では神の国:ヴァリノール、人間界:中つ国、冥王の居所:モルドールとなります。
「中つ国」は英語では "Middle-Earth" です。ミッドガルドと根を同じくします。
ヴァナ・ディールでは、世界の根源、女神アルタナと男神プロマシア、そしてクリスタルの世界、5つの種族の人間の世界、闇の勢力の世界となります。
ちなみに、「地獄」なる場所のイメージは地域によって大きく異なります。
中東から南欧にかけては、燃え盛る炎や煮えたぎる溶岩など灼熱の世界をイメージしますが、北欧などではすべてが凍てつく氷の世界のイメージになります。
地域の気候などが、神話の舞台のイメージに大きく影響を与えています。
ヴァナ・ディールにおける「中の国」は、辺境を除いた4大陸を指し、アトルガン地方やひんがしの国、アドゥリン地方と区別する呼び名となっています。「中つ国」に似た名称を与えたのは「指輪物語」の影響と考えることもできます。
シルマリルの物語と架空世界
「シルマリルの物語」 (英題: The Silmarillion) は「指輪物語」の歴史書、世界設定資料と言えます。
「指輪物語」の舞台となった時代だけでなく、「中つ国」の創世神話「アイヌリンダレ」から始まる5つのパートで構成されています。
その原作は、なんと紙の厚みが60cmを超える膨大なものでした。
中つ国の歴史や、エルフ族やドワーフ族、オーク族など各種族の言語、文字なども定められています。
ドワーフ族の言語はルーン文字を原型としています。
ルーン文字は古代ゲルマン人が用いた文字で、スカディナヴィアでは中世まで使われました。各地に残る石碑にルーン文字を見ることができます。
ヴァナ・ディールでも、魔導剣士にルーン文字が受け継がれています。
架空世界があたかも実在するように感じられるのは、矛盾のない緻密な設定があってこそです。
ヴァナ・ディールにおいても、ミッションなどから垣間見える歴史や人間関係の背景には、緻密で膨大な世界設定が存在します。
そして、並のRPGを遥かに凌駕するボリュームゆえ、ヴァナ・ディールは神話並の広大な世界になっています。
J.R.R.トールキンの世界
J.R.R.トールキン、本名をジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン (John Ronald Reuel Tolkien) と言います。
南アフリカで生まれ幼少期に英国に渡りました。1892年1月3日生、1973年9月2日没。
幼い頃より言語能力がとても高く、4歳ごろにはラテン語の読み書きができました。後に、古英語をはじめ北欧の諸言語や古語など多くの言語に精通しています。
オックスフォード大学で学び、卒業後は英国陸軍に入隊し第一次世界大戦を経験します。
戦争で塹壕熱にかかり帰還し、療養中に様々な物語の構想が生まれました。
ミソピアとは何か
ミソピア (Mythopoeia) は「神話創造」と訳されます。
架空の世界をまるごとひとつ作り出す。独自の歴史を持つ完成された世界を、1から作り直す。それがミソピアです。
民族、地理、歴史、文明などが矛盾なく設定されている必要があります。
架空世界の物語で代表的なものと言えば、アメリカでは古くは「スター・ウォーズ」、最近のものでは「ゲーム・オブ・スローンズ」、日本では「銀河英雄伝説」や「ベルセルク」などがそれにあたります。
ミソピア(Mythopoeia)のMythは神話を意味し、ギリシャ語の神話創造を指すμυθοποιίαに由来します。
トールキンの生まれ育った英国には、他の北欧諸国に見られる神話が存在しなかったことから、トールキンは英国の神話を新たに創造しようと考えたのです。そして「指輪物語」を始めとする一大神話を構想しました。
元になったのは自らの経験と、各地の神話、伝承、古典文学などで、それら全てをいったんバラバラにして再構築しました。
アーサー王伝説、ヴァイキングサーガのほか、日本では馴染みが薄いですが、北欧では有名な「ベオウルフ」をはじめ様々な神話や伝承が取り込まれています。
伝統的な英雄像には程遠い主人公フロド
「指輪物語」の終盤、滅びの山でひとつの指輪を破壊する場面のフロドは、伝統的な英雄像からは程遠いものです。
自らの意思を持ち勇猛果敢に指輪を破壊する、ではなく、フロドは指輪の魔力に負けてしまい、「ここに来て捨てるハズだったか、捨てるのはや止めた。指輪は僕のものだ。」と言って、最後の最後に指輪を指にはめてしまいます。
そこに、指輪を取り戻そうと虎視眈々と狙っていたスメアゴルに襲われ、指輪ごと指を噛みちぎられてしまいます。指輪を取り戻して狂喜するスメアゴルを、フロドは突き落とそうとしますが一緒に火口に落ちていきます。間一髪でフロドは助かり、スメアゴルは指輪と一緒に溶岩に沈んで行きました。
このシーンはとても印象的でした。
フロドは最後の最後に指輪の魔力に魅了され負けてしまいましたが、指輪に執念を燃やすスメアゴルの邪な行為で、結果的に指輪は破壊され、中つ国は救われました。
運に救われたとも言えます。
伝統的な英雄なら、意志の力で指輪を打ち砕いていたことでしょう。
ソードアート・オンラインのキリトくんは、伝統的な英雄像と言えますね。
このエピソードは、運命を切り開く者ではなく、運命に導かれるものが世界を救うのだという、ある種の決定論的な在り方を示しているように思います。
運命を切り開く、と言うのは人間のエゴであり、あらゆるものには定められた運命があるということを示唆しています。
なぜなら、人間を含め生命は広大なる宇宙の一部だからです。生命を構成する要素、炭素や窒素、カルシウムや鉄などは、恒星の爆発から生まれた宇宙の塵です。私達生命は、宇宙の塵からできているのです。
運命を切り開いたり、運命に導かれることそのものが、運命に組み込まれているとも言えます。
第一次世界大戦の悲惨な経験
トールキンは第一次世界大戦に従軍兵として参加しています。
フロドが伝統的な英雄像からかけ離れ、運に救われた者と言う描かれ方をするのは、トールキン自身の第一次世界大戦の従軍経験にあると思います。
剣と盾で戦う中世の戦争とは異なり、第一次世界大戦はあらゆる兵器が異常に発達した戦争でもあります。爆弾や毒ガス、銃火器の進化は、剣と盾の戦争では考えられないくらいの膨大な死者を出しました。そして塹壕戦は、大砲や毒ガス、不衛生きわなりない環境、蔓延する病気で兵士が塹壕で朽ち果てて行くという残酷な戦況を生み出しました。
運命に抗う前に大砲で死んでしまう。毒ガスで死んでしまう。病気で死んでしまう。
「指輪物語」の中で、死者の沼地と言う場所が出てきます。大戦の恐ろしさを投影した場面です。
戦場で生き延びたのは、勇敢なものではなく、たまたま運が良かったものだった。そんな経験が、人間は運命のなすがままの存在であると言うことをトールキンは悟ったのではないでしょうか。
指輪物語の中では、多くの人間が戦いで死に、朽ち果てていきます。塹壕戦の経験が「指輪物語」を書かせたと言えるかもしれません。
FF11は21世紀の神話
ファイナルファンタジーシリーズは、そのどれもが神話などをベースにしていますが、とりわけFF11のボリュームは圧倒的です。
歴代のFFシリーズの優れた要素が凝縮されており、近未来的なものではなく、まさに神話の世界の王道ファンタジーに仕上がっています。
そして、トールキンの世界では描かれることがなかった東方や南方の神話や伝承まで取り込まれているところが、ヴァナ・ディールに広がりと深みを与えています。
モンスターのや装備の名称の背景を探っていくと、世界の神話や伝承にたどり着きます。数あるファイナルファンタジーシリーズの中で、私がとりわけFF11に惹かれるのは、このような新たな神話の世界を体験できるからです。
世界中の神話や伝承を再構築したヴァナ・ディールは、21世紀の神話であると言えます。
神々の戦い
この記事を書くにあたり、とても刺激を受けた番組があります。
冒頭でも触れた「ヒストリーチャンネル」でやっていた「神々の戦い」と言う番組です。
9月に放送されましたが、10月31日から再放送される予定です。
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神々の戦い | ヒストリーチャンネル
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スカパーのすすめ【ながら視聴】
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まとめ
ヒストリーチャンネルの「指輪物語」特集を観てから、かなり大きな影響を受け、ここしばらく指輪物語の世界に入り浸っていました。
映画やゲームは映像がどんどん進んで行くので、ともすればその1シーンに込められた世界の厚みを感じることが難しいことがあります。
背景の世界観、設定などをじっくり紐解いていくと、1シーンにどれだけの情報量が詰まっているのかを知ることができ、好奇心を刺激されます。
多くの冒険者に、指輪物語の世界に興味を持っていただければ幸いです。
また指輪物語を愛する人には、FF11に興味を持っていただければ幸いです。
Amazon Primeでの視聴はこちら。
以上、FF11的世界観 指輪物語 トールキンの世界 でした。